伝統料理を守り発展させ
島を支える女性たち
〜玄界島鰆めしの素作業部会〜
「ベイサイドプレイス博多ふ頭」から定期船で約35分。福岡市西区に浮かぶ玄界島は周囲約4kmの自然豊かな島。漁業が盛んで一年を通して多くの魚介類が水揚げされている島で、昔から愛されている味の一つが鰆を使った『鰆めし』。島の味を「名物」にまで高めて広げようと、鰆を8年ほど前から『鰆めしの素』に手作業で加工している。
玄界島に伝わる郷土料理『鰆めし』
訪ねたのは『鰆めしの素』を加工している『玄界島鰆めしの素作業部会』のみなさん。松田土志野(としの)さんを中心に作業が行なわれている加工場には甘辛い香りが漂う。『鰆めし』は鰆の身を醤油などの調味料で炊いてごはんと合わせた混ぜごはん。島ではお祭りやお祝い事などの時に食べているという。「鰆は成長するにつれて名前が変わっていく出世魚でもありますし、おめでたい料理です。『鰆めしの素』作りが始まったきっかけは、以前、玄界島で鰆が大漁だったことがあったからです。獲れたその日のうちにさばいてできるだけ新鮮なうちに加工すれば美味しさもひとしおですからね。2kg以上の鰆はより脂がのっていて美味しいですね」。玄界島周辺で獲れる鰆は豊富なカタクチイワシやアミを餌にしておりとても良質とのことだ。
消費者の安心守る丁寧な手作業
作業部会には女性5名が在籍。取材時は4名の方が手際よく仕事をこなしていた。
まず、三枚におろした鰆を一口サイズにカット。身に深く入っている中骨をはじめ丁寧に骨を取り除いていく。「小さいお子さんでも安心して食べられるように、骨は手でさわりながら丁寧に取り除いていきます。身にくっついている内臓の一部も、風味に影響するのできれいにしておかなければなりません」。カットされた身は醤油、酒、本みりん、出汁などを合わせた煮汁で炊いていく。温度を測りながら炊き終わったら冷ましてパック詰めするが、パック詰めの直前まで骨が残っていないかを細かく確認。最後まで丁寧な手作業が続いていく。
試行錯誤を重ねて生まれた
「ほっとする味わい」
炊きあがってすぐの鰆の身をいただいた。ふっくらとしてやわらかな身、上品な味付け。素朴でほっとする味わいだ。ごはんに合わせると最高なのは容易に想像できる。「鰆の身はごはんとよく馴染みますし、火を入れても身がかたくならないんですよ。味付けする調味料の分量は秘密ですね(笑)。『鰆めし』は家庭料理ですから、それぞれの家庭で味は違うのですが、みんなで何度も試食しながらこの味に作りあげました」。冷凍して出荷される『鰆めしの素』は、自然解凍して炊きたてごはんと混ぜればできあがり。タマネギやキャベツと合わせれば酒のつまみにもぴったりとのこと。鯖科である鰆はDHAなどを多く含む青魚。『鰆めしの素』は、美味しさに加えて栄養価の面からも優れた食品だといえる。
島の味を引継ぎ
もっと広く伝えたい
島には『鰆めし』をはじめ魚介を使ったごはん物を総称して、『魚ごはん』という呼び名もあるようだ。「『ブリごはん』もあるし『サザエごはん』もあります。昔は『クジラごはん』もありましたね。でも、今は子どもたちが家で『魚ごはん』をあまり食べなくなってきているようなのです。また、近年は鰆が獲れにくくなっているのも心配です。そんな中で、私たちは島に受け継がれてきた『鰆めし』を伝え続けていかなければならないと思っています。イベントに出店した時など、食べてくれた小さなお子さんが『美味しい』と言ってくれるのは本当にうれしいですし、たくさんの方々に食べていただきたいですね」と松田さん。
海の環境や世の中が変化する中、試行錯誤を経て玄界島に伝わる伝統の味を守り続けている。