伝統と経験受け継ぐ

鯛漁師三世代

全国でもトップクラスの漁獲量を誇る福岡の天然マダイ。福岡市西区西浦では、古くから「ごち網」と呼ばれる漁が行われてきた。知識と経験が必要なごち網漁は、経験豊富な漁師でなければ難しいとされる。そんな伝統漁法を代々受け継いでいるのが、柴田さん一家だ。親から子へ、そして孫へ……。三世代で出漁し、貴重な経験を継承している。

漁は自然との戦い

柴田さん一家は、代々続くごち網漁師。「ごち網漁」とは、瀬の周辺などに集まった魚を、袋状の網で獲る漁法。あまり聞きなじみがないが、五つの智恵(知恵)を意味する仏教用語「吾智」が由来とされる。時間とともに変化する風向きや潮の流れ・満ち引き、さらに海底の至るところに潜む瀬などを把握し、網を入れるタイミングや方向の見極めが結果を大きく左右する。何十年と経験を積んで海を知り尽くした上で、自然との戦いに挑むのだ。

漁師である限りずっと勉強

西浦地区では、2隻で操業する『2そうごち網漁』が主流。網の両側に繋いだワイヤーロープを「本船」と「片船(かたぶね)」と呼ぶ2隻の船で並走しながら、長い時で45分ほどかけて魚を網に追い込んでいく。本船で指揮を執る柴田勝善さん(73)は、漁師歴55年以上の大ベテラン。息子の勝也さん(41)が「片船」を操る。ロープの総延長は1500メートルほどになり、絶えず無線で連絡を取り合いながら、呼吸を合わせて進んでいく。ポイントも東は沖ノ島、西は壱岐の手前までと、広大な海の中から経験を元に決めなければならない。西浦の漁師たちは、こうしてともに漁をしながら高度な技術を継承してきたのだ。ベテラン漁師の勝善さんは、「何歳になっても一人前と言うことはない。漁師である限りずっと勉強」と語る。

鮮度保つ船上での手ぎわ

4月から12月までの漁期の間、マダイを中心にさまざまな魚種が獲れるという。春はサワラ、夏はキンメダイ、秋はカンパチやヤガラ、冬はアオハタやイサキなども網に入ってくる。柴田さん一家の『大生丸』では、鮮度を保つために獲れたての魚を船上で神経締めして氷と一緒に箱詰めしている。だから、私たちは近海で獲れた鮮度抜群の魚を味わうことができるのだ。

「技と心意気」を次世代に

これまで、勝善さんと勝也さん親子を中心に操業してきたが、2024年春、水産高校を卒業した勝也さんの長男・翔真さんも漁師の仲間入りを果たした。翔真さんは、小学生の頃から漁師になるのが憧れだったという。高校では漁業について学ぶコースもあったが、あえて船舶の機関や整備の技術を習得するコースを選んだ。

勝也さん、翔真さんともに、漁師になった理由を「親の背中をずっと見てきたから」と語る。現在は勝善さんや勝也さんが教師役となり、一人前の漁師となるべく奮闘している。世代から次の世代へ。受け継がれてきた漁師の技と心意気は、これからも続いていく。